同和対策審議会答申

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第1部 同和問題の認識

1 同和問題の本質

 いわゆる同和問題とは、日本社会の歴史的発展の過程において形成された身分階層構造に基づく差別により、日本国民の一部の集団が経済的社会的文化的低位の状態におかれ、現代社会においても、なおいちじるしく基本的人権を侵害され、とくに、近代社会の原理として何人にも保障されている市民的権利自由を完全に保障されていないという、もっとも深刻にして重大社会問題である。
 その特徴は、多数の国民が社会的現実としての差別があるために一定地域に共同体的集落を形成していることにある。最近この集団的居住地域から離脱して一般地区に居住するものも多くなってきているが、それらの人々もまたその伝統的集落の出身なるがゆえに陰に陽に身分的差別のあつかいをうけている。集落をつくっている住民は、かつて「特殊部落」「後進部落」「細民部落」など蔑称でよばれ、現在でも「未解放部落」または「部落」などとよばれ、明らかな差別の対象となっているのである。
 この「未解放部落」または「同和関係地区」(以下単に「同和地区」という。)の起源や沿革については、人種的起源説、宗教的起源説、職業的起源説、政治的起源説などの諸説がある。しかし、本審議会は、これら同和地区の起源を学問的に究明することを任務とするものではない。ただ、世人の偏見を打破するためにはっきり断言しておかなければならないのは、同和地区の住民は異人種でも異民族でもなく、疑いもなく日本民族日本国民である、ということである。
 すなわち、同和問題は、日本民族日本国民のなかの身分的差別をうける少数集団の問題である。同和地区は、中世末期ないしは近世初期において、封建社会政治的経済的社会的諸条件に規制せられ、一定地域に定着して居住することにより形成された集落である。

 実に部落差別は、半封建的な身分制度であり、わが国の社会に潜在的または顕在的に厳存し、多種多様の形態で発現する。それを分類すれば、心理的差別実態的差別とにこれを分けることができる。
 心理的差別とは、人々の観念や意識のうちに潜在する差別であるが、それは言語文字行為を媒介として顕在化する。たとえば、侮蔑する差別、非合理な偏見や嫌悪の感情によって交際を拒み、婚約を破棄するなどの行為にあらわれる差別である。実態的差別とは、同和地区住民の生活実態に具現されている差別のことである。たとえば、就職教育の機会均等が実質的に保障されず、政治に参与する権利が選挙などの機会に阻害され、一般行政諸施策がその対象から疎外されるなどの差別であり、劣悪な生活環境、特殊で低位の職業構成、平均値の数倍にのぼる高率の生活保護率、きわだって低い教育文化水準など同和地区の特徴として指摘される諸現象は、すべて差別の具現化であるとする見方である。
 このような心理的差別実態的差別とは相互に因果関係を保ち相互に作用しあっている。すなわち、心理的差別が原因となって実態的差別をつくり、反面では実態的差別が原因となって心理的差別を助長するという具合である。そして、この相関関係が差別を再生産する悪循環をくりかえすわけである。
 すなわち、近代社会における部落差別とは、ひとくちにいえば、市民的権利自由の侵害にほかならない。市民的権利自由とは、職業選択の自由、教育の機会均等を保障される権利、居住及び移転の自由、結婚の自由などであり、これらの権利と自由が同和地区住民にたいしては完全に保障されていないことが差別なのである。これらの市民的権利自由のうち、職業選択の自由、すなわち就職の機会均等が完全に保障されていないことが特に重大である。なぜなら、歴史をかえりみても、同和地区住民がその時代における主要産業の生産過程から疎外され、賤業とされる雑業に従事していたことが社会的地位の上昇と解放への道を阻む要因となったのであり、このことは現代社会においても変わらないからである。したがって、同和地区住民に就職教育の機会均等を完全に保障し、同和地区に滞留する停滞的過剰人口を近代的な主要産業の生産過程に導入することにより生活の安定と地位の向上をはかることず、同和問題解決の中心的課題である。

第3部 同和対策の具体案

4 教育問題に関する対策

(1)基本的方針
 同和問題の解決に当たって教育対策は、人間形成に主要な役割を果たすものとしてとくに重要視されなければならない。すなわち、基本的には民主主義の確立の基礎的な課題である。したがって、同和教育の中心的課題法のもとの平等の原則に基づき、社会の中に根づよく残っている不合理な部落差別をなくし、人権尊重の精神を貫くことである。この教育では、教育を受ける権利(憲法第26条)および、教育の機会均等(教育基本法第3条)に照らして、同和地区の教育を高める施策を強力に推進するとともに個人の尊厳を重んじ、合理的精神を尊重する教育活動が積極的に、全国的に展開されねばならない。特に直接関係のない地方においても啓蒙的教育積極的に行われなければならない。


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